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ベラルーシへ使節団を派遣

HICAREでは,ベラルーシのヴィチェックでの医療検診とミンスクでの講義を開催するため,使節団を派遣しました。

期間:

平成16(2004)年10月23日~30日

団員:

現地の医師達と

星 正治 広島大学原爆放射能医科学研究所教授
武市宣雄 広島甲状腺クリニック院長
三本亜季 広島甲状腺クリニック臨床検査技師
寺島 悠 チェルノブイリ支援運動・九州事務局
マリーナ・チャイキナ ロシア語通訳
山田英雄 ロシア語医療通訳・コーディネーター

現地活動の概要と印象:

チェルノブイリ原発事故被災者の医療支援を1991年より行っている「チェルノブイリ支援運動・九州」の依頼を受け,1997年より年2回,広島の専門家が現地において「移動検診車による甲状腺癌の早期診断・治療システム」導入により,ベラルーシ共和国ストーリン市,ブレスト市の各医療施設で検診を行ってきた。今回は,さらに,昨年3月,HICAREによる調査派遣時のビチェフスク州立内分泌病院と検診の合意により,初めてビチェフスク市において検診が施行された。
ビチェフスク市 ビチェフスク州立内分泌病院における検診~非汚染地域の抱える現状~
  ビチェフスク市は,首都ミンスク市より北東350kmロシアに隣接する,マルク・シャガールの生誕地として有名な町である。今回の検診団派遣は,コントロール調査と非汚染地域における甲状腺癌の調査が主たる目的であった。
  州立内分泌病院において,2日間で59名の甲状腺癌検診を,武市宣雄院長を中心に過去7年間,現地および日本での研修により吸引穿刺・染色等の医療技術をマスターしたブレスト州立悪性腫瘍病院・内分泌診療所 国際赤十字連盟移動検診チームの医師達も検診に参加した。吸引穿刺後の標本は,ブレスト州立病院 内分泌診療所において染色され保管されている。目標として,検診団滞在中に,標本を染色し診断結果を知らせるよう努めている。
  ビチェフスク州立内分泌病院 ガリーナ院長は,「私たちは,ブレスト州立病院における国際赤十字連盟移動検診チームと日本の医師達の検診活動に大変,刺激を受けまた,興味を持っている。非汚染地域の指定を受けている当地においては,ブレスト市のようにNGO,国際赤十字,共和国政府などによる移動検診チームは組織されていません。しかし,ビチェフスク州には現在22000人の汚染地域からの移住者が住んでおり,甲状腺疾患,糖尿病等の内分泌系の疾患が心配されています。移住者が多く住んでいる農村部の医療施設では充分に対応できていません。非汚染地域なので医療面でのケアーが遅れがちです。そうした意味で,日本の専門家による検診に深く感謝します。ブレスト市の移動検診チームの取り組みが日本の専門家との協同で活躍している事を知り,保健局とも話し合い,できれば今後当地においてもブレストのような移動検診チームを作りたいと考えています。医療技術や医療設備の面では彼らのような質の高さには及ばないかも知れませんが,その効率的なシステムをビチェフスクでも確立できるよう進めてゆきたいと考えています。
  支援運動・九州の皆さん,日本の専門家の皆さんとは,これからも末永い関係を続けて行けたらと思います」と語った。
ブレスト州立悪性腫瘍病院 内分泌診療所 国際赤十字移動検診チームの協力
  ビチェフスクにおける検診においては,ブレスト国際赤十字移動検診チームの医師4名が検診に協力してくれた。これら医師は全員,HICARE,広島赤十字・原爆病院の招聘により,広島の各医療機関で研修した医師達である。
  エコー,顕微鏡,染色セット等の検診に必要な機材を,ブレストから約1000kmも離れたビチェフスクに貸し出してくれた。移動検診になれている彼らのおかげで,問診,触診,採尿,採血,エコー検査,吸引穿刺,染色,プレパラート固定という,一連の検診の流れが非常に速やかに進んだ。ブレスト移動検診チームのアルツール医師から,今回始めて検診に参加したビチェフスクの医師達に対して,日本での研修結果である武市宣雄院長のエコー診断,吸引穿刺のテクニックについて検診の間,始終解説を加えてくれた。ウラジーミル医師も,患者のカルテをPCで登録作成し丁寧なデーターベースを作り触診などにおいても指導的役割を果たしてくれた。
  国際赤十字移動検診チームは,ゴメリ,モギリョフ,ブレスト市の汚染された州にのみ1995年に組織された。中でもブレストの検診チームは,支援運動の検診に当初から積極的に加わり,日本の医師達から直接に吸引穿刺等の技術を学んでおり,HICARE,広島赤十字県支部・赤十字原爆病院の招聘による研修の経験を有し,高い医療技術と診断の信頼性,効率的な検診システム確立という点においてベラルーシ国内においてその活動は高く評価されており,ベラルーシ共和国における一つのモデルケースとして,着実に医療技術,人材育成の面でスッテプ・アップしてきている。ビチェフスクの医師達にとって,今回ブレストの検診チームと交流の機会となり,今後の協力をお互いに確認しあった。
国際医学シンポジウムの開催
  10月29日には,ミンスク第10番病院において医学再教育アカデミーの内分泌教室 ラリーサ・ダニーロバ 教授を中心に国際医学シンポジウムを開催した。今回のシンポジウムは,98年,99年,00年に続き4回目のシンポジウムとなった。
  シンポジウム開催にあたり,アントン・ロマノフスキー ベラルーシ赤十字総裁,ラリーサ・ダニーロバ教授の挨拶に続き,ご臨席いただいた森野善朗 在ベラルーシ日本大使からもご挨拶をいただいた。「日本とベラルーシとの間で,このような協力が行われている事を大変喜ばしく思う。地道で着実な取り組みは,時がたっても長く地元に残っていくもので,同じ日本政府を代表する者として,支援運動の取り組みに感謝する」と,日本とベラルーシ双方の協力に対し感謝を述べられた。
  続いて,星 正治 広大原医研教授が「放射線医学について チェルノブイリとセミパラチンスクの放射線線量測定について」1994年からの研究・調査の講演をされた。
  武市宣雄院長は「甲状腺疾患の症例・診断」について講演され,会場において,広島医師会より出版されたチャートが配布され,講演を聴きながら熱心にメモを取る姿が多く見られた。質疑の時間においては,甲状腺疾患の手術法に関して多くの質問があった。
  シンポジウムに参加した医師は約200名で,ベラルーシ共和国各州から参加した専門家たちである。医学再教育アカデミーで現在,研修を受けている学生,研究員,臨床医も20名ほど参加した。ベラルーシ側より,若い医師,研究員の研修の場として,年2回の検診のうち後期の派遣にあわせ当アカデミーにおける医学シンポジウム開催の要望が出され,ホルプ学長からも日本の専門家によるミンスクでの講義,研修の機会を今後増やしてほしいとの要望があった。

講義風景

ブレストにおける第4回検診
  今回の検診においては,同じく赤十字国際連盟移動検診チームの医師である,アリーナ医師とエレーナ医師が検診に参加した。2004年3月,HICARE,赤十字広島県支部・赤十字原爆病院の招聘で広島の各医療施設で研修を受けた,アリーナ医師が細胞診の染色を,エレーナ医師がエコー診断を受け持ち,日本医科大学 清水一雄教授,渡会泰彦臨床検査技師と検診を進めていった。
ブレストでは,29名の検診を行った。甲状腺癌を疑わせる患者が数名見つかり,検診最終日には,標本の染色を済ませ,細胞診の結果を現地におく事ができた。今回も日本医科大学からは,医学部4回生の賀来佳男さんがボランテアとして検診に参加され,エコーや染色の手伝いを担当し検診をサポートされた。
  「現地の医療設備を見て,日本と比べ物資が不足している事に驚きました。現場での検診に参加して驚きの連続で,大きな刺激を受けました」と話し,今後も協力できる事があれば手伝いたいと話してくれた。
検診を終えて
  日本とベラルーシの医師たち,ベラルーシ赤十字の積極的な協力により,長い取り組みがようやく成果を挙げつつある。1991年より支援事業を通じて培ってきた相互の信頼関係をより大切にし,現地の問題に対処してゆきたいと思う。
  最後に,広島の専門家派遣に関しては,HICAREより,ご協力をいただき,より細やかで効果的な医療支援活動を行う事ができ,この場を借りてお礼申し上げます。