専門家の派遣

トップページ > 専門家の派遣 > 派遣リスト > ブラジルにHICARE会長等を派遣

ブラジルにHICARE会長等を派遣

高齢化が進む在ブラジル被爆者が,現地において安心して医療を受けられる環境を整備するため,ブラジル連邦共和国において,現地医療従事者を対象とした被爆者医療に関する研修を,HICARE,広島県医師会及び広島県の合同で実施するため,HICAREから会長等を派遣しました。

期間:

平成19(2007)年10月8日~10月19日

構成員:

氏  名役       職派遣者
碓井 静照広島県医師会会長広島県医師会
土肥 博雄HICARE会長,
広島赤十字・原爆病院院長
HICARE
伊藤 勝陽HICARE幹事,
広島大学医師医師薬学総合研究科教授
HICARE
松村 誠広島県医師会常任理事広島県医師会
野村 邦明広島県福祉保健部保健医療局長広島県
八幡 毅広島県被爆者毒ガス障害者対策室主任主査,HICARE書記広島県
船岡 徹HICARE書記,広島市原爆被害対策部主査HICARE

現地日程:

月  日都 市 内           容
10月 9日(火)サンパウロ日本人移民開拓先戦没者慰霊碑参拝
サンパウロ州医師会,在サンパウロ日本国総領事館,ACカマルゴ病院,ブラジル広島県人会 訪問
10月10日(水)サンパウロACカマルゴ病院医師への講演(土肥会長)
【参加者41名】
日伯友好病院での研修会【参加者80名】
健康講演会(松村医師,午前:老人クラブ,午後:日伯文化協会)
10月11日(木)サンパウロサンタクルス病院で研修会【参加者120名】
10月12日(金)サンパウロ被爆者協会健康講演会(松村医師)
被爆者協会と意見交換会(県行政)
健康相談(県医師会主催 相談者20名)
13日・14日移動等移動・準備日
10月15日(月)クリチバパラナ州赤十字総裁,スギサワ病院,エラスト・ガイルトナールがん病院 訪問
健康相談(県医師会主催 相談者4名)
パラナ州医師会館で研修会【参加者105名】

*広島・往復及び帰国後の厚生労働省等報告等日本国内行事につては,省略

サンパウロ州医師会(パウリスタ医師会)を訪問

日伯友好病院での研修会(講師一同)

サンタクルス病院での研修会 受講風景

所感等

土肥博雄HICARE会長 【サンパウロ,癌病院での研修会について】
10月10日6時20分にマツバラホテルに広島県人会の大西会長が迎えに来られる。行き違いはあったものの,6時50分には会場に着くことができた。世話する方と思われる二人と後ろに一人だけで寂しいと感じたが,7時には続々集まり,結局41名の参加があり,補助椅子を追加する盛況ぶりだった。

講演会はDepartment of Radiology of Cancer Hospital のセクションであった。放射線科のSalvajoli教授と共に年配の病理学者が一人参加した。

7時7分過ぎくらいからDr. Torloniの司会で始まり,私が紹介された。英語で約40分間講演した。内容は被爆前の日赤病院,被爆直後の日赤病院そして佐々木禎子,原爆の子の像,ケロイド,25名の原爆乙女の米国出発から始まり,ABCC-放影研のLSS研究,原因確立から推定の癌発生の増加まで話した。これからのテーマとして,若年被爆者層の91%が生存中であることから今後の癌研究の重要性とMDSの重要性を強調した。

終了後病理学者の先生から二つ質問があった。一つは被爆者から抜け落ちた歯の重要性についてであった。歯のエナメル質から線量推定ができることを話した。もう一つはコホット研究の難しさとその精度についてであった。死亡個票にまで追及して98%の精度が得られていると説明した。

講演終了後,Dr. TorloniとSalvajoli教授に連れられて別室でスナックを頂戴した。皆集まり,ブラジルでは早朝講演の後朝食にしていると感じた。その後菊池さんの車で日伯友好病院に行った。


伊藤勝陽HICARE幹事
 渡伯は初めてで,遠いとは聞いていたが,家を出て40時間で漸くサンパウロのホテルに到着,改めて遠いと実感した。サンパウロ医師会と総領事館などを表敬訪問した後,A.Cカマルゴ病院を視察した。この病院は南米一のがん病院とされ,1日の外来患者数は約1万人,ブラジル全土から研修医が集まっている。各診療科の診察室は夫々20近くあり,1万人の外来患者が診療されていることを納得した。放射線科は別棟にあるとのことで見学は割愛したが,CTは電子ビームCT(EBCT)を使っているとのことであった。EBCTは躯幹部用のCTというより循環器専用の装置で広島大学でも以前はEBCTを有していたが現在はより高性能な多検出器列CT(64列)に更新している。

 翌日10日からは土肥博雄HICARE会長(副団長)は早朝よりACカマルゴ病院でレジデントを対象に原爆被爆者固形がんについて講演後,日伯友好病院で我々と合流。研修会終了後,広島大学放射線科で3ヶ月間研修していた大久保静ローザさんに放射線科を案内してもらう。画像診断医4名で,古いCTと新しく導入されたMRIの読影に従事,CTは今度新しくなるとのことであるが,装置の性能を目いっぱい使って診療している。

 ところで4名の医師がいるといっても,常勤職員としていつも4名いるとは限らないようである。殆どの医師は月曜日はどこそこの病院,火曜日はこの病院という様に複数の施設で診療している。病院全体の実働の医師数を把握するには病院には何人の医師がいますかと聞くより,今日は何人の医師が働いていますかと聞いた方が良いようである。日伯友好病院にしてもサンタクルス病院にしても外来患者に比し入院病床数は200床程度しか持っていない。

 我々と別行動を取っていた県医師会の松村先生の健康講演が翌日のサンパウロ新聞に大きく取り上げられており,10日は松村dayといっても過言ではなかったようである。

 11日はサンタクルス病院で講演。朝刊に松村先生だけでなく,碓井団長の今回のブラジル訪問の目的なども掲載されていて,120名以上の聴衆が集まっていた。

 12日は松村先生がサンパウロとその近隣の被爆者を対象に「健康はうろつきまわって」を講演。次いで健康相談。相談中に数日前より胸の痛みを訴える被爆者がおり,心筋梗塞と診断され病院に搬送。治療費は民間保険に加入していないととても払えそうもない額である。在伯被爆者160名の約半数が民間保険に未加入とのこと。保険未加入の被爆者をどのようにサポートするかがこれからの課題である。

 15日は無償の医療保険制度により診療しているがん病院(Erasto Gaertner病院)を訪問。日系の整形外科医Dino Kusakawa先生の案内で,佐藤さんを通訳として土肥副団長と訪れる。放射線治療装置として直線加速器(リニアック)を4台持っているものの3台は購入後20年を経ており,数年前に導入したバリアンの装置1台をもっぱら使用している。昨年購入したRALSは前立腺治療を主体に近々1000例に達するとのこと。この病院では皮膚がんが最頻で20%弱,以下子宮がん17%,乳がん14%と続く。医療費は通常の1/5程度しか国から支給されるのみで,装置の更新もままならないようである。当然医師および医療従事者の給与は低く,このことから複数の病院に診療に出かけざるを得ない。ブラジルの勤務医も過重労働である。

 夕方よりパラナ州医師会館で研修会。学生も参加していた。